月刊近美2月号 N0.009

 

日本有数の不夜城、札幌市。
人々は夜毎ススキノに繰り出し、合法、非合法を問わず快楽をむさぼっている。
法の網の目をかいくぐり、甘い蜜をすする者たちを取り締まるため日夜命を賭して戦う北海道警察。終わりの無い戦いを続ける道警諸君の一方で、たった一人の人間のために徹夜もいとわず試練に挑む研究員たちの姿があった。

密着近美24時 遅れて来た七三サンタ
text&photo / Akihiro Endo

平成17年1月29日(土)25:03
B6プライベートルーム

四人の研究員たちが研究業務を終え集まってきたのは、深夜一時のことだった。
多量のアルコールを摂取する研究会議を行うためだ。

久々の研究会議。
アルコールを摂取しながら談笑する研究員たち、しかし去年の反省に話が及んだ時、梅津研究員がふと言った。
「そういえば、去年の年末webプレゼントは無事発送したのか?」
研究員たちのグラスを傾ける手が一斉に止まった、長い沈黙が辺りを包む。地上からパトカーのサイレンの音がかすかに聴こえる。長い長い沈黙だった。

「…今から直接届けましょう!」
沈黙を破ったのは荒木博士だった。
あっけにとられる研究員たち、しかしすぐさま我に返り力強くうなずいた。
アルコールによって濁っていた瞳は輝きを取り戻し、B4情報処理室に向かって駆け出した。
この時早朝5時。

1月30日(日)5:15
B4情報処理室

「当選者の住所を早急に割り出してくれ!」
部屋に駆け込むなり常勤のオペレーターに怒鳴る。
近未来美術研究所が誇る最新鋭のスーパーコンピュータと、NASA共同開発の専用衛星を駆使し割り出しを急ぐ。
「なんとゆうことだ…」
出力されたデータには厚別区の文字が、とても徒歩で行ける距離ではない。
しかし手段は残されていた、以前よりJR北海道から依頼され極秘開発していた北海道新幹線プロトタイプ『NFAL-K400系』
走行試験を兼ねて出動させることにした。

研究員たちはJR札幌駅へと急いだ。

1月30日 6:23
JR札幌駅

事前に駅事務所に一報を入れておいたのが功を奏したのだろう、待ち時間も無くスムーズに列車に乗り込むことができた。
列車に揺られながらひと時のまどろみに身を委ねる。昨夜のアルコールが今頃になって効いてきたのか、研究員たちは次々と深い眠りに落ちてゆく。

「みんな起きろ!」
はじめに気がついたのは塚田研究員だった。
窓の外には見慣れぬ景色。
列車は目的の駅を大きく過ぎていた、近美専用列車にも関わらず、だ。
しかたなく普通列車に乗り換え再び目的の駅を目指す。

1月30日 9:02
JR上野幌駅


「列車を降りた彼らを迎えたのは、八甲田山を彷彿とさせる厳しい自然環境だった。
だが挫けるわけにはいかない、プレゼントをなんとしても届けるという使命感に背を押され、一心不乱に歩を進める。

1月30日 9:37
謎の施設

黙々と歩き続ける彼らの目の前にある施設が姿を現した。
その怪しげなたたずまいに研究欲を押さえきれなくなった彼らは、施設内に足を踏み入れた。

中には見たこともない装置がずらりと並んでいる。一見自動販売機の様にも見えるが、その商品は主に成人男性が好んで鑑賞するDVDやVHSばかりだ。 「非常に興味深い…」 調査を進めるうちに彼らはある結論に辿り着いた、 「この施設は人目を気にすること無く目標物を購入できる、やさしさに溢れた大人のアミューズメント施設だ!」 先端技術に触れ満足した彼らは、なぜか後ろ髪を引かれつつも本来の目的を果たすため再び歩き出す。

1月30日 15:12
当選者宅付近

研究熱心であるが故にすっかり遅くなってしまった。
途中一般市民のために凍った路面に砂を撒きつつ急いで向かう。

1月30日 15:41
当選者宅

いよいよその時を迎えた、インターホンを押す指も心なしか震える。
「近未来美術研究所の者ですが、プレゼントをお届けに上がりました。」
…単刀直入、且つ怪し過ぎる。
はじめに当選者のお母様、次いでお姉様が出ていらした。
残念ながら本人は不在であったが、ご家族の方も近美の存在を知っていたらしく、プレゼントはご家族に預けることで配達は無事完了した。

全てを終えた研究員たちの顔は充実感で光り輝いていた。 後に研究員たちは語っている、 「たった一人のためでも僕らは全力を尽くすんです、近美を支えてくれているのはその貴重な一人一人のファンの方々なんですから!」

-完-

追記

帰り道はお母様に車で最寄り駅まで送っていただきました。
この場を借りて深く御礼申し上げます。

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